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東京家庭裁判所 昭和51年(家イ)154号 審判

申立人

山田花子

相手方

サンダー・エム・カビタ

主文

申立人と相手方を離婚する。

申立人と相手方との長男サンダー(昭和四四年五月一〇日生)の親権者を申立人と定める。

理由

一申立の実情

申立人は、主文同旨の調停を求め、その実情として次のとおり述べた。

1  申立人と相手方は、昭和四三年八月一三日から同居し、昭和四五年一二月三日婚姻したものであるが、その後、相手方に異性関係が生じ、また仕事の面でもトラブルを作り、家庭をかえりみず外泊を重ねたので、再三反省を求めたが、これを改めない。

2  申立人と相手方は、昭和四八月九月ごろ別居したが、相手方は、フイリピン国に戻り、同地で他女と同棲し、申立人に対して生活費の仕送りはおろか、何の連絡もない。

3  以上のような状況であるので、請求の趣旨記載のとおりの調停を求める。

二調停の経過

当裁判所の調停委員会は、昭和五一年一月二三日と同年八月一三日の二回にわたり調停を試みたところ、相手方に対する期日呼出状は送達されているものと思われるが、相手方は期日に出頭しない。

三当裁判所の判断

(一)  申立人の戸籍謄本、那覇市長作成の婚姻届受理証明書写、申立人より相手方に対する手紙写七通、レナ・キビツタより申立人に対する手紙、申立人に対する審問の結果および当庁昭和五〇年(家イ)第一五二号夫婦関係調整調停事件の一件記録を総合すると、次の事実が認められる。

1  申立人と相手方は、昭和四三年四月二〇日知り合い、同年八月から沖縄において同棲し、その間に、昭和四四年五月一〇日長男サンダーが出生したこと。

2  申立人と相手方は、昭和四五年一二月三日婚姻の届出をしたが、申立人は、昭和四六年ごろ現住所に戻つて別居し、その後再び同居したものの、相手方は、昭和四八年暮ごろから歌手としての仕事がなくなり、落着きがなくなつて、トラブルを起こし、当時居住していた申立人の実家から家出したが、昭和四九年一月末に再び同居したこと。当時相手方には収入がなかつたので申立人の親の援助を受けていたこと。

3  相手方は、同年二月から七月末までは申立人と同居し、生活費も入れていたが、同人は観光ビザで来日していたため、長男サンダーを申立人の手許にのこして同年八月帰国したまま別居し、現在に至つていること。

4  昭和四九年八月以後、相手方からは同年一一月中旬に一六万円の送金があつたのが最後で、以後何の連絡もないこと。

5  昭和五〇年二月二七日、相手方は、当庁における同人に対する審問において、離婚に同意していたこと。

6  昭和五一年一月相手方の住所地のレナ・キビツタという女性から、申立人に宛て「相手方と婚姻したこと、相手方は申立人を愛していないこと、相手方は申立人に返事をしないだろう」という趣旨の来信があつたこと。

7  申立人は、本件調停申立後相手方に対し、前後七回にわたり手紙を出したが、これに対し何の音沙汰もないこと。

8  当事者間の長男サンダーは、申立人の手許から小学校に通学しているが、同人の監護については、申立人の両親の援助を期待できること。

(二)  ところで、本件は、いわゆる渉外離婚に関する調停事件であり、相手方はフイリピン共和国人で同国内に住所を有するものではあるが、前記認定のとおり、相手方は、日本国内において婚姻し、日本国内に居住していたもので申立人を悪意で遺棄し、帰国しているものと認められるので、正義公平の理念にてらし、申立人の住所地である日本国が本件の裁判管轄権を有するものというべく、また、当裁判所がその管轄裁判所ということになる。

(三)  つぎに、本件の準拠法についてみると、法例第一六条本文によると、離婚原因事実が発生したときの夫の本国法によるべきところ、一九五〇年六月一九日施行のフイリピン共和国法第三八六号は離婚に関する規定を欠き、また、同法第一五条は「家族の権利義務または人の法律上の身分、地位および能力に関するフイリピンの法律は、外国にあるフイリピン人にも適用される」と規定しているので、いわゆる反致条項を適用すべき余地がない。

このように、夫の本国法が離婚を認めていないという事実は、それ自体では公序良俗に反するとは言えないものである。しかし、本件は、妻である申立人が婚姻前から日本国に居住し、日本国籍を有する場合であり、しかも、夫である相手方から悪意で遺棄され、相手方から何の連絡もないという場合である。このような場合に、夫の本国法により申立人の自由を永久に拘束することは著しく公序良俗に反するものというべきである。したがつて、本件の場合は法例第三〇条により夫の本国法であるフイリピン法の適用を排除し、同法に次いで緊密な関連を持つ我国の法律を準拠法とすべきものである。また、離婚に伴う未成年の子の親権者の指定については、離婚の効果として離婚の準拠法によるのが相当であるから、結局これも我国の法律を準拠法とすべきものである。

(四)  してみると、前記のとおり、申立人は相手方から悪意で遺棄されたものであり、同人らの婚姻はすでに完全に破綻していると認められるので、家事調停委員沢木敬郎、同森田正子の各意見を聴き、当事者双方のため衡平に考慮し、一切の事情を斟酌して家事審判法第二四条の審判をなすことを相当と認め、主文のとおり審判する。 (吉本俊雄)

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